【出張報告】人型を主とした中国ロボット産業の視察
はじめに
先般、当会調査部では、昨今世界から注目を集める中国のロボット産業の動向調査のため、上海市と浙江省杭州市を訪問しました。以下に、各視察概要を掲載します。
訪問先
上海市訪問先:
1.上海傅利葉智能科技有限公司(フーリエ・インテリジェンス)
2.上海智元新創技術有限公司(アギボット)
3.上海擎郎智能科技有限公司(キーンオン・ロボティクス)
4.上海開普勒机器人有限公司(ケプラー)
浙江省杭州市訪問先:
5.浙江強脳科技有限公司(BrainCo)
6.杭州雲深処科技有限公司(ディープロボティクス)
7.宇樹科技有限公司(ユニツリー)
【訪問概要:上海における人型を主とするロボットの最新動向】
➀上海傅利葉智能科技有限公司(フーリエ・インテリジェンス)
2015年設立。設立当時から下肢外骨格ロボット、上肢リハビリテーションロボットなどリハビリ支援ロボットを開発し、その経験を活かして2021年頃に人型ロボット開発に参入した。2023年に人型ロボット「GR1」を量産、次いで「GR2」、「GR3」と世代を重ねて発展。従業員のうち6~7割が技術者として従事しており、基本的に毎年1機種を開発・発表するハイペースなサイクルで開発が行われている。また、生産、研究開発、製造の全てを自社で一貫して行っており、特にロボットの肝である関節部品を内製化してコスト削減と生産ペースの迅速化を図っている。人型ロボットはフル生産すれば1カ月に100台弱の生産が可能だが、常にフル生産しているわけではない。価格は1台42万元(約800万円)と他社の人型ロボットと比較しても値段が抑えられているとのこと。
実用例としては、第1世代ロボットが商業施設での案内、受付のほか、展示ホールでの説明などで多く導入されており、金融機関ではロビーマネージャーとして音声対話、金融知識応答などの導入実例もあるとのこと。
担当者は、人型ロボットは人にとっての心理的受容性の障壁が低く、工場などの生産現場や医療施設などでのリハビリ用途に加えて、家庭や学校などでの実装の余地が大きいと強調し、5~10年で「一家に一台」、価格は自動車並みの水準に近づくのではないか、と展望した。
➁上海智元新創技術有限公司(アギボット)
2023年設立のアギボットは、従業員のうち約7割が技術者、平均年齢は32歳と、フーリエ同様に開発を重視した人員体制となっている。同社は上海・臨港に生産ライン、張江に4000㎡を超えるデータ収集工場、北京にアルゴリズムセンターを拠点として置いている。資金調達は累計約6000億円近くに上る(中国エンボディドAI分野では最大級)。23年8月に汎用型(人型)ロボット第1世代「遠征A1」、24年8月に対話型サービスロボット「遠征A2」、しなやかな機動性と親しみやすいインテリジェンスを備え、研究・エンタメ・介護など幅広く活用可能な「霊犀X2」シリーズ、データに関する収集・プラットフォームとの連携を通じたソリューション提供が可能な「G1」を発表し、累計1000台を出荷。各製品はリモコン操作を選択することも可能だが、基本的には自律型の判断・行動がメイン。また、人型ロボットの部品のうち優れた触感センサーを備えたスキルハンド「OmniHand」など部品を内製しているとのこと。
現時点では、袋詰めや商品陳列・受け渡しに加え、服の折り畳みや掃除、電子レンジの使用などサービス面での機能が実現可能となっている。
データ収集については、「Genie Studio」というデータ収集、シミュレーション、トレーニングを全て提供するソフトウェアプラットフォームも保有し、ユーザーも利用可能であるほかサーバーリソースも提供し、データベース構築を支援可能。200万回のデータをオープンソースとして提供しており、さらに300万回のデータでベースモデルをトレーニングしているほか、顧客が収集したデータと組み合わせることも可能であるという。自社で収集した100万件以上の軌跡データを基盤に、わずかな追加データのみで高度な汎用学習を実現するロボティクス技術も有している。
その他、巡回警備向けの四足型ロボットも主力製品とし、大型四足ロボットは70キロの荷重歩行が可能で、犬サイズの四足ロボットは転倒からの自律での起き上がりなど安定性に優れる特徴を持つ。日本では自動車・薬品・食品メーカーなどに向けて既に10億円超を売り上げているとのこと。 会社公式HP
➂上海擎郎智能科技有限公司(キーンオン・ロボティクス)
キーンオンは2010年設立。創業当時はレストランでの配膳ロボットからスタートし、現在も主力製品である。現在は、清掃ロボット、医療施設向け消毒用ロボットなども展開しており、世界60カ国で累計10万台販売、日本でも飲食店・小売店で多くの導入事例があるという。創業当時から注力してきたサービス分野におけるシーンにさらに対応すべく、人型ロボット「XMAN-R1」を開発。空間認識や論理推論技術などを活用し、人間の指示をさらに理解・実行可能である他、群知能技術によって同社製品と作業分担・連携が可能であるという。
製品の販売先国・地域としては中国国内が中心であるものの、少子高齢化が進展していたり人件費が高い国を中心に海外売上が伸びているという。また、人型ロボットの現実的な用途として、将来的には家庭、工場、危険物を取り扱う場所など、幅広い分野での応用を目指している。また、サービス面でも、従来のように飲食店で客のもとへ料理を運ぶだけの配膳ロボットではなく、卓上までサーブするという一歩進んだサービスを実現するためには「手」を備えた人型ロボットが適しているので開発したいとのコメントもあった。会社公式HP
➃上海開普勒机器人有限公司(ケプラー)
上海開普勒机器人有限公司(ケプラー)は、工場・倉庫・高負荷や危険作業などB2B産業用途に特化した人型ロボットを開発しており、2025年発売モデル「K2大黄蜂シリーズ」を1台42万元で量産・販売中。運搬能力としては片腕で15kg、両腕で25~30kgの物を運ぶことが可能。1時間の充電で8時間稼働、歩行のみなら10時間、静止状態なら24時間以上の起動が可能で、年内に数百台の販売を見込んでいる。また、同社の強みとして「ローラーねじ」の技術を有しており、重い物を持ち上げる腕関節や脚部関節などに最適である他、摩擦が少ないことから発熱が抑えられるためエネルギー効率と寿命の長さにメリットがあるとのこと。(担当者曰く、この技術を利用しているロボットメーカーは、小鵬汽車、テスラなど世界で4社のみとのこと)
長時間駆動が可能な背景としては、待機中の低電力モードへの切り替え、自社製品であるモーターによる高効率なエネルギー転換が可能なためであるという。
製品の利用シーンについては、まずは工業・産業分野で人型ならではの活用シーンの幅を広げていき、環境が整えば介護など対人向け製品の開発にも取り組んでいくとのこと。現在は中国国内販売のみだが、将来的には海外販売も視野に入れていくようだ。会社公式HP
【訪問概要:杭州における人型を主とするロボットの最新動向】
⑤浙江強脳科技有限公司(BrainCo)
同社は、杭州六小龍(杭州を代表する科学技術企業6社)の一つで、中国国内で初めてのBCI(ブレイン・コンピューター・インターフェース)分野のユニコーン企業である。2015年にハーバード大学イノベーションラボ発の中国初のチームとして設立。非侵襲式BCI技術を中心に、神経信号の検出・解読・フィードバックを実現し、技術は医療・教育・リハビリ・健康管理など多分野で応用されている。拠点は杭州のほか、深センと米国(ボストン、オースティン)。
主要製品はスマート義手・義足。義足は、センサーとAIアルゴリズムを用いたスマート膝関節義足。歩行・階段・スポーツなどの動作に応じて液圧システムをリアルタイム制御し、自然な歩行を再現している。義手は脳波・神経電・筋電信号を検出し、使用者の運動意図を解読して義手の動作へ変換。5本の指を独立して動かせるほか、自己学習アルゴリズムによって30キロの重量から豆腐・卵のような柔らかい物まで繊細に扱え、触覚を通じて物体を認識し、物体の破損を回避する技術を備えている。北京冬季パラリンピックでも選手に採用されるなどスポーツにも対応。義手はユニツリー(宇樹科技)等の人型ロボット向け「腕部」としても採用されている。日本進出にも意欲的で、12月に東京ビッグサイトで開催の国際ロボット展にも出展予定。会社公式HP
⑥杭州雲深処科技有限公司(ディープロボティクス)
同社は、浙江大学のロボット関連のラボから生まれた企業で杭州六小龍(杭州を代表する科学技術企業6社)の一つ。2017年設立。設立当初から四足歩行ロボットの開発を主としており、中国国家電網、チャイナモバイル、Amazonなどの国内外大手企業とパートナーシップを締結しているほか、中国内外の有名大学や研究機関(シンガポール南洋理工大学、北京大学、香港大学など)とも連携。四足歩行型ロボットとしては中国国内の産業用ロボット市場で80%以上のシェアを誇る。
2018年に中国初の自律的な階段昇降や自律ナビゲーション、インテリジェントな対話が可能な四足歩行ロボットを発表。2019年には初の産業用四足ロボット「絶影X10」が登場し、2021年には工業用防水の四足ロボット「絶影X20」を発表し、国内で初めて四足歩行型ロボットによる変電所の完全自律巡回点検を実現。後継機も続々と発表し、産業設備はもちろん災害現場などでも救援・巡回警備など多方面で導入されている。現在、最も販売数の多い主力製品は「絶影X30」で、自律ナビゲーション・自律充電機能を備えているほか、定格積載量は20kg(最大積載量85kg)となっている。
人型ロボットについては「DR01」、「DR02」を開発。「DR01」は柔軟な運動性能、地形対応力、環境適応性、自己学習能力を有しており、「DR02」は雨・湿気・粉塵、低温・高温など苛酷な環境にも耐える全天候屋外対応型となっている。
その他、人型・四足歩行型問わず自社で開発した関節部品を使用。人型ロボットは、四足歩行ロボットに比べ動作が多彩で複雑であることから、開発の難易度が高く商業化には少なくともあと3~5年が必要との見解だった。会社公式HP
⑦宇樹科技有限公司(ユニツリー)
同社は杭州六小龍(杭州を代表する科学技術企業6社)の一つ。2016年設立で、本社・工場ともに杭州濱江に位置。ハードウェア中心の体制で、ロボットの「身体」と「小脳(バランス機能)」の開発・生産・販売を一貫して行う。杭州雲深処科技有限公司(ディープロボティクス)同様、四足歩行型ロボットから開発を進めていたが、2023年頃から、人型ロボット開発にも参入。人型ロボットシリーズ「G1」をはじめとして急速な発展を遂げ、その姿勢やダンス、格闘技などの動きが他社製品より人間に近いレベルに達している。主な応用シーンとしては、教育・研究開発部門がハードウェアを調達し、独自の応用や二次開発を行うプラットフォームとして使用されるほか、新しいダンスなどの動作を習得、発表するなどエンタメ分野での活用が進んでいる。人間との対話においてはChat GPTの音声モジュールを搭載しており、現時点では中国語と英語のみ対応だが、日本語など他言語対応も可能である。人型ロボットはその他「R1」、「G1」、「H1」、「H1-2」など多くのシリーズが開発されている。 会社公式HP
総括
用途特化の産業用ロボット(非人型)は既に成熟度が高く、動作速度や精度で人型より優位にある一方、人型ロボットは心理的受容性と汎用性を武器に、限定的なシーンでの実装を足掛かりに普及が加速する可能性がある。現時点での課題は、人型ロボットの標準・安全基準の未整備であり、例えば自動運転などと同様、事故時の責任分界や運用ルールの策定が実装拡大のボトルネックとなることが懸念される。
その他、日本市場への導入については、認証取得や企業風土の保守性などが参入障壁となっているという話もあった。一方、配膳・清掃分野では既に導入実績もあり、センサーなど各部品や検査・計測といった日本の強みを活かしたり、少子高齢化に伴う労働力不足の現場への導入、警備・インフラ点検・介護などの分野では協業の余地が大きいと思われる。
訪問先各企業で共通して言えることは、従業員の過半数は技術者であるほか、20~30代の若手が牽引し、他分野からロボット産業への人材シフトも見られた。今回の視察は、中国のロボット産業が国家支援と苛烈な競争を背景に急伸しつつある現実と、日本からはその変化を肌で感じにくく、生の情報とのギャップの存在を再認識するよい機会となった。多くの日本企業に(導入・協業の可否はさておき)中国の現場で起こっていることを実際に見てもらい、新たなビジネスチャンスにつなげてほしいと強く感じた。
ご案内
当会では、12月8~11日にかけて、北京市へ派遣する「人型ロボット・自動運転ミッション」の参加者を募集しております。具体的な訪問先は調整中ですが、中国で進む自動運転、人型ロボットの最前線を網羅できる視察内容となる予定です。
参加人数も最大30名と限られているため、ご興味・ご関心の方はお早目に事務局までご連絡ください。
ミッション案内ページ:https://www.jc-web.or.jp/pages/2023/
ミッションについてのお問い合わせ先:
日中経済協会(担当:蝦名、藏田)
TEL: 03-5545-3113
蝦名 kohei.ebina[at] jc-web.or.jp
藏田 daisuke.kurata[at] jc-web.or.jp
※[at]は@に変換ください。











